水星文庫ってご存知ですか~
1980年代中頃に、筑摩書房から出版されていたシリーズで
『ある迷宮物語』 種村 季弘
『映画はもうすぐ百歳になる』 四方田 犬彦
『闇にひとつ炬火あり』 池内紀
『今やアクションあるのみ!』 赤瀬川源平
等々、豪華な執筆人と面白そうなタイトルで
一世を風靡したんじゃないか、と想像しています。(よく知らないけど)
どうですか? おもしろそうでしょう。
で、そんなシリーズのなかのひとつが本書
『パラノイア創造史』です。
これまた、素晴らしいタイトルですね。
天才と狂人は紙一重とか言いますが、
本書は、そういうどっちかという狂人よりの天才ばかり集めた傑作です。
妖精に憑かれた家系
地球を割ろうとした男
脅威の心霊的発掘家
新文字を発明した人びと
幻覚幻聴体験と電気感覚
奇妙な家を建てようとした男
など、魅力的な章だてです。
江戸時代の有名なキ●チガイ建築二笑亭「奇妙な家を建てようとした男」
について書かれていたのが気になって読んだのですが、
それ以上にすさまじいのを発見しました。
「新文字を発明した人びと」というのが、それです。
明治から大正にかけて精神医学界をリードした
巣鴨病院長(その後松沢病院)呉秀三氏の研究紹介です。
荒俣氏をして「どれを読んでも思わずメモを取りたくなる」
と書かしめた、驚愕の精神病患者の症例を
私もメモしたので、見てください。
以下『パラノイア創造史』より引用
"岡田靖雄編『精神科症例集』からの孫びき
~分裂病症例12 女(1901年12月生)
「家は?」
「エジプト」
「エジプトの何町?」
「○○町」
「何県?」
「エゾ松前の地獄谷」
(支離滅裂な自発語の例)
「恐れ入ります。プリーズ。いたい。西瓜のたね。
体じゅう寒いの、あつい、天皇さま。暑いの」
「エレクトリックと先生申しましたね。
グリーク語で電気という意味でしょ。
何て失礼なこと申しましたでしょうか。
かい虫が一匹出たことがありましたね。
先生が一度お見舞いくださいましたとき、
強情な奴見たことないと申しました。」"
"~脳血管障害をともなう分裂病 男(1907年2月生)
「体中の肉がひっぱってとられる。頭の骨もない。
高い所から針金でえぐられる。
皆のそばへ行ったり、外へ出ると、やられる。
樹の陰や自室内にいれば、やられない。
頭をひもや布や石でしばっているのも、
肉をとられるの防ぐためである。
自分は自然人で、姉と二人、
火山がとけたのが草むらに流れてかたまって生まれた。
永久に死なない。自分は世界各国人で、
ドイツ大使館から、静養のためにきた。
外国の警察から仕事を命じられている。
自分は女で、股(陰茎)がない。今ついているのは、
赤ん坊のとき手術で縫いつけられたものだ」"
まったく凄いとしか、言いようがありません。
しかし、もっと驚愕なのが、日本の紳士でした。
その日本の紳士は自分をドイツ人シターウだと信じています。
どうやら不遇な半生だったようで、
これまで冷遇されてきたのは
自分が外国人だからだ、と何故か深く確信してしまいました。
そこまでは、別に取り立てて珍しくもない狂人ですが
その後の、行動力が凄い。
見たことも無いドイツ語でビスマルクに帰化の嘆願書を書いた。
しかも裏からよめば、日本語に読めるという。
"まったく翻訳不要の新文字を創りあげたのである! "
荒俣宏氏もそういって感動してやまないようでした。
その新文字の写真も載っている超貴重本なので
ぜひ読んでみて下さい。
●『パラノイア創造史』
荒俣宏/1985年11月/筑摩書房/イシカワ
表紙はこっちのがいい。
文庫化もされてました。
コメント(2)
これはおもしろそうですね!!
さすが、元ジュンク堂書店にお勤めされていただけありますねぇ?
筑摩文庫は「珍日本紀行」をはじめ、良書揃いですよね!
早速mAmazonのカートに入れさせていただきました。
●ほいじんがさん
同志!
やっぱりほいじんがさんには、理解していただけると思いました、
めくるめく奇書の世界を…!
むかし、私がポップや書評で薦めていた本は、
ほとんど売れずに本屋の諸先輩方から大不評でした。
しかも、ブログでレビューやるって言ったら、
酒井氏には「コメントこないよ」って言われて、
またしても大不評でした。
でも、ほいじんがさんに面白そうと思っていただけて、
超嬉しいです!!
ありがとうございました!
(春吉)
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