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廃牛

2012年06月 | CATEGORY : めずらしい廃墟 | COMMENT(4)


それは唐突に現れた。

廃墟探索遠征の旅の最終日、
私の廃墟レーダーが突如として反応したのだ。


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「あっ、今なにかあった!」
車窓を流れる景色の端に私の視線がなにかを捉えた。(写真左端)
それは今回の旅の最後を飾る、
堂々たるメイン物件との出会いの瞬間だった。



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その物件へのアクセス方法の発見は困難を極めた。
そして、ついに見つけた進入路の先に、
それはあった。


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牛!

いや、斜め構図に撮る必要はない。
素直にいこうではないか。


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牛だった。

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私は足音をできるだけたてずに物件に接近した。
それは明らかな廃テイストを湛えているものの、
立入禁止の文字はどこにも見あたらない。
しかも、前面の草はきれいに刈られてさえいる。


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管理人が存在するのか?
それとも、なんらかの近代化産業遺産として指定され、
保存されているものなのか?


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エントランスの扉は、
朽ちかけて少し開いている。


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鍵は掛かっていない。
セ○ムのステッカーもない。
どうやらウエルカム物件のようだ。


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しかし、ここで簡単に侵入してはいけない。
まずは周囲の観察だ。
物件の側面に回ると特徴ある開口部が見えた。

なんと、先日見た戦時中の火薬庫廃墟の入り口と
形状が酷似している。
この物件は戦跡である可能性すら出てきた。


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長年手入れされていない壁は
所有者の不在を如実に物語っているようだ。


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しかし、こんな所から無理な姿勢で撮影しても、
何を撮っているのかさっぱり伝わらないであろう。


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これは物件の裏側。しっぽのようだ。


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迷いが感じられない見事な造形に、
製作者の職人意識が垣間見られる。


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物件を一周するのに3分とかからなかった。

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ではいよいよ、侵入してみることにする。


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息を殺して内部に潜入する。
室内は非常に暗い。
人の気配はなく、もぬけの殻だった。
中央に見える大きな物体は、
カラオケボックス等で見る
プロジェクションテレビのようだ。

そしてそこであるものを発見し、
私の顔色が変わった。


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蜂の巣だ!

天井を見ると、写真に写っている数の数倍の、
大小様々な蜂の巣があった。
幸いなことに、
この季節はこちらももぬけの殻だった。


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廃墟探索において、
私がいつも実践していることがあった。
それは、
できる限り廃墟の屋上に立つ、ということだ。

そう、屋上に立つことでしか
見ることのできない景色があるのだ。
人と違うものを見たければ、
人と違う場所に立つしかない。


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しかし、この建物のツルッとした躯体は、
容易には屋上へのアクセスを受け付けなかった。

だが、こんなことで諦める私ではない。
日頃の特訓における
ボルダリング技術の粋を発揮し、
僅かな引っかかりに手脚を掛け、
ズリズリと登っていった。


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そしてついに、私は屋上へ立った。


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屋上から見える景色は、想像通りの素晴らしいものだった。
この物件の所有者が見ていたであろう同じ景色を、
今自分は見ているのだ。


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これは何かというと、
しっぽを上から見たところである。


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これは何かというと、
......正直、すでにどこなのかさっぱり分からない。


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残念なことに、屋上にはすでに大きな隙間が空き、
この物件の先行きも長くないであろう。


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屋上から降りる時は、草むらへジャンプ。
調査が終われば長居は不要だ。
私はすぐに撤収することにした。

全国の廃墟マニアに贈る渾身のレポを書き上げた今、
ひとつの大きな問題に直面した。
これだけの物件を紹介したのであれば、
各方面から問い合わせが殺到することは避けられない。
近年、日本の廃墟文化が注目を浴びる
海外からの問い合わせも多くを占めるだろう。

しかし、ルールはルールだ。
廃墟の場所やアクセス方法は
教えることはできない。
言えることは、某県某所に
それは存在しているということだけだ。



●廃牛 - Abandoned cow -
某県某所/2012年4月/鬼束7段



大きな地図で見る

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[ 追記 ]
近くのコンビニの人の話やネットの情報によると、
この牛は県内の有名観光地・K駅前にあった
ソフトクリーム屋さんの小屋として使われていたそうです。
不要となり、誰かが買い取って今の場所に置いた後、
再利用されずに今に至るのだとか。

[ リンク ]
啝(わ)氏による廃墟写真サイト「失われた場所クロニクル」
#149 廃牛 Abandoned cow





コメント(4)

これは素晴らしいですね!
確かに昔、K里の駅前で見たような気がします。

「ニッポンの廃墟シーンを揺さぶる衝撃の物件だ」
―TIME誌
 
 
「この牛の出現は、ニッポンの廃墟カルチャーにとって
ターニングポイントになるだろう」
―ニューヨーカー誌


各誌から賛辞がなりやみません。

(イシカワ)

鬼束先輩、ありがとうございます!!
   
面白かったです!!!!
随所に知的でややブラックなユーモアがちりばめられていて、まさに鬼束さん本人の人柄が出ていますね(笑)
  
僕は個人的にこの物件は、すごく素敵だと思いました。
牛の顔があんまし可愛くないのも良いですね。
  
でも、まさか鬼束さんが
八画文化会館に寄稿してくれるとはなあ。
それが一番のうれしい驚きです。

ありがとうございました!!

drawing your attention product.

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