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『郵便配達夫シュヴァルの理想宮』岡谷公二(作品社)

2011年07月 | CATEGORY : book | COMMENT(2)


  
フランスの南東部にあるオートリーブという小さな村に
すごい宮殿があるのをご存知でしょうか。
空想癖の強い郵便配達夫が
勤務中に見つけた変わった形の石を集めて
夜な夜な作り上げた理想宮で
100年以上も昔の1870年頃のものです。


 
シュヴァルの理想宮は現存していて、公式HPもあります。
理想宮の描写も真に迫っていたので、引用します。  

  "この円柱がいただく細部は、実に多様で、
  とてもいちいち説明することはできない。
  小さな玉飾りを連ねた無数の玉縁、
  メダイヨン、十字架、きのこ状の突起、
  法隆寺の百万塔やイスラムのミナレットや
  中国の塔などを思わせるさまざまな小塔、
  そして塔や突起の頂きにとまる鶏をはじめとする
  沢山の鳥......"

  "三つの巨像のあいだには、下部に凹みが
  しつらえられていて、そこには、
  埴輪のような細い眼をし、
  円筒形のスカートをはいた二人の素朴な女性像が刻まれており、
  また巨人たちの胸の高さのところでは、
  チーターとかわうそがその頭を突き出している。
  シュヴァルは二人の女性像を「ミイラ」と呼び、
  巨人像全体を「少しエジプト風」だと言っている。"

想像を絶する、この理想の宮殿は
村人たちからは忌み嫌われますが、
アンドレ・ブルトンらのシュルレアリストから絶賛されます。

そして、時のお偉いさんであり、
当時文化担当の国務大臣を務めていたアンドレ・マルローが
崩壊の危機にあった理想宮を、国の重要建造物に指定しようと
働きかけます。
余談ですがアンドレ・マルローは、カンボジアのアンコール遺跡、
バンテアイ・スレイのデヴァダーを盗もうとして、捕まったことがあります。
偉いのにやんちゃです。

しかし、こういった偉大なる個人の、大いなる理想を掲げたものは
絶大な評価の反面、嫌われたら、とことんです。

  "要するに私は深い不快感をおぼえました。
  なにからなにまで糞みたいなもの、
  なんとも言いようのない排泄物みたいなもので
  できているように思われました。
  とりわけ、ずるい動き方をする得体の知れない動物の上に
  乗っているような気がしましたよ。"

ちょっと、誰の評価か忘れましたが、こんなに酷評もされています。

奇人作家レーモン・ルーセル(この人はこの人で気になります)や
素朴派の画家アンリ・ルソーとの比較もあり、
貴重な図版だけでなく読みごたえのある本です。
そして、なんといっても、作品社の本なので、
装丁やちょっとした挿絵も、本当に素晴らしいです。
河出書房から文庫化されてましたが、
作品社の単行本の方が、はるかにかっこいいです、本としては。
 
 
 
●『郵便配達夫シュヴァルの理想宮』 
岡谷公二/1992年09月/作品社/イシカワ
 
 

文庫版。こっちの方が買いやすいけど、

こっちのがかっこいい!

コメント(2)

マルローには、埼玉の巌窟ホテルも崩壊の危機から救ってほしかったです。

●ポンチさま

あぁ?、巌窟ホテルも好きそうですよね、マルロー。
でも、中に入って、壁のレリーフとか、盗みますよ、きっと。

(春吉)

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