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『考現学入門』今和次郎・著 藤森照信・編(筑摩書房)

2011年06月 | CATEGORY : book | COMMENT(2)

赤瀬川原平氏ら路上観察学会の面々がリスペクトしている、
考現学の創始者、今和次郎の著作の中で
一番手に入りやすく、入門者でも読みやすいのが、この本です。
藤森照信氏が編集されているので
建築や、路上観察がお好きな方にお薦めです。

今和次郎氏について少し触れておくと
1888年(明治21年)生まれ
激動の明治・大正・昭和期を生きた方で、
民俗学者の柳田國男に師事し
田舎の調査に同行して民家や生活道具などをスケッチした。
その後、訳あって柳田に破門され
「考現学」なるものを創始し、研究に明け暮れる。
そういった方です。
  
本書では、まず路傍採集と称して
自在鉤、かかし、ランプ、駄菓子屋の店などを通して
昭和初期の日本の田舎と都会の風俗を
事細かにスケッチして報告しています。

そして、1923年に起こった関東大震災により
変貌した東京の街の様子を記録すべく
モガやモボが闊歩している、いわゆる「銀ブラ」中の
通行人の服装や持ち物を徹底調査しています。

女性の洋服と和服の割合は、なんと1対99
しかし、当時でもこれは意外な結果だったようで
印象としては洋服はもっと多くいるように感じられたみたいです。
  
銀ブラの次は対照的な「本所深川貧民窟付近風俗採集」。
かなり刺激的なタイトルです。
  
当時、普通の小住宅は1エーカー(1224坪)に
12戸から15戸とされていたのが、貧民窟地帯にはなんと
1エーカー当たり1560戸もの家が建てられていたようです。
その様子を少し長くなりますが引用します。

 "貧民窟のうちでも特別有名なのは、
  自由労働者という肩書きをもっている一定の家のない、
  もちろん独身のいわゆる立ちん坊なるものの集まっている
  深川富川町あたりです。
  (略)
  簡易旅館と呼ばれる、看板のでている木賃宿は、
  三畳間に三人ずつのごっちゃで、
  一人前の宿代は三〇銭ずつです。
  が、それにもありつけないで疲れたままうずくまって
  立ったりしている状況がこのあたりにみられるのです。
  それらは独身者です。そしてバーがそのあたりに軒並み続きます。
  
  その区域を過ぎてすすみますと、
  こんどは家庭をもっている工場労働者の住宅区域です。
  そのあたりは大煙突が立っている工場が分布されていて、
  それらの大伽藍を取巻いて、働く人たちの家々があるのですが、
  そこで男は工場へ通うか、女は内職をやっているかしているもの、
  または家中で家庭工業に働いているもの、
  とにかく家庭貧民(立ちん坊にたいして)の
  家屋とはいえない家屋が広がっているのです。
  (略)
  酔っぱらい、ひとりごとをいうもの、
  彼らはさめていてなお夢のなかにあるとも、 
  またすでに魂が破損してしまっているのだとも思わせられるのが、
  いたるところにみられるのです。
  それらは貧民窟の胸に輝く勲章であり、
  装飾品であるかの感がするのです。"

「魂が破損」という表現は、
するどい観察者からボロっと出た真実のようで怖いです。
しかし、それが貧民窟では勲章であるというのです。
不思議な感動に包まれている雰囲気がよく伝わってくる名文でした。
    
そして、また圧巻なのが井の頭公園をパトロールしているくだりです。
井の頭公園の、春のピクニックの様子を
それぞれどんな人が何を食べているかなど
詳細を調査し、マッピングするという観察のあとに
井の頭公園自殺場所分布図が続いているのです。

たとえば、こんなに淡々と報告されています。
 
  "1926年2月16日(略)つぎの日の午後発見。
  松の木に首吊り。早大生。制服着用。
  ポケットの帳面に、「いい死場所ヲ見ツケタ」とあったと。"
  
こんなことを今から90年くらい前にやってたんです。 
素晴らしいじゃありませんか。

●『考現学入門』 
今和次郎・著 藤森照信・編/1987年01月/筑摩書房/イシカワ
 
  

コメント(2)

この本が綺麗にラッピングされた状態で妻からクリスマスプレゼントとして貰ったなら、僕は妻に2度恋をするでしょう。

例えが意味不明ですがそれくらいこの本に興味がわきました。
ジャンルが違いますがハヤカワ文庫の「FBI心理分析官」のようなディープな雰囲気がたまりませんね。

●くまおさん

コメントありがとうございます!!!

ということは、奥さまはくまおさんの心の
ベルを二度鳴らすことになるわけですね。
長年連れ添った夫婦にしかできない、
素晴らしい愛情交換の方法だと思います。

ちなみに、日本とスペインには
サン・ジョルディの日(4/23)という
本を贈る日、というよくわからない記念日があります。

万が一クリスマスにもらえなかった場合は、
このネタをふって、ほしい本リストなどを
机に置き忘れてみたりするのも手です。

(春吉)

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