Web magazine

正しい昭和のデパート食堂〈マルカンデパート大展望大食堂〉

2016年06月 | CATEGORY : 終末物件 | COMMENT(0)

17★岩手県花巻市_マルカン百貨店097r.jpg

岩手県花巻市にある〈マルカンデパート大展望大食堂〉が、本日2016年6月7日をもって閉店してしまいます。

耐震診断で大規模修繕の必要があると判明し、それにはかなりお金がかかるので継続営業は困難という旨の発表が2016年3月7日にあり、地元である花巻を中心に閉店を惜しむ声があがっていました。

昨日6月6日に、マルカン百貨店の代表電話に電話して聞いてみましたが、「存続の話も出ているみたいだが、詳しくはわからない。明日でデパートも食堂も閉店する」という話で、存続の話は出ているけれど、まだはっきりとしたことは明言できないようでした。

地元メディアの河北新報の記事によると、運営引継ぎに名乗りをあげた空きビルのリノベーション会社が存続を検討中で、順調に進めば2月に再オープンするというのが、現時点の状況です。

?

02★re.png

▲河北新報2016年6月1日の記事より引用

八画文化会館では2013年5月に訪問して、2013年8月発売の本誌『八画文化会館vol.3 特集:廃墟の秘密。』の「WAITING?FOR THE?終末観光」というコーナーでも紹介しましたが、改めて大食堂を訪れた際の様子を、記録として残しておきたいと思います。



【目次】

1. 花巻の街を「銘都」にしていたのはマルカンだ

2. 「常食」としてのデパート大食堂

3. 八画文化会館3号より

4. 名物の箸で食べる10段巻きソフトクリーム

5. 閉店までの経緯をまとめると




1. 花巻の街を「銘都」にしていたのはマルカンだ

花巻。もしもニッポンの銘都ランキングが開催されたら、断然上位に入るだろう。花巻は、終末都市の理想的な姿だった。

心に残ってしまう街というのがある。それは必ずしも、世界遺産や国宝などの伝統ある場所が残っている、最先端の集客施設がある、などのハード面だけで評価が決まるのではない。

心象に残る街というべきか。 その町の一般的な観光スペックとは違うモノサシで測られる、"なんだかいい街"が全国各地に残っているのだ。そこを歩いているときには、「ここはとてもいい雰囲気の街だなぁ」というぐらいの、淡くぼんやりとした味わいなのだが、銘都は旅が終わったあとに真価を発揮する。

ふとしたときに思い出したり、意識していなのに話題にあげてしまったりする。そして銘都の価値がはっきりとわかるのは、その銘都を銘都たらしめていたものが、なくなるときだ。

03★岩手県花巻市_マルカン百貨店010re.jpg

▲上町商店街は花巻駅からは離れた場所にある繁華街

マルカン百貨店は、花巻市の中心市街地であり、上町商店街の中央に位置する名物デパートであった。同じ商店街にあったエセナ(旧花巻デパート)が2010年に閉鎖してからは、今にも消えそうな商店街の灯を守っていた。

04★岩手県花巻市_マルカン百貨店022re.jpg

▲2016年6月7日で43年の歴史に幕を下ろす〈マルカン百貨店〉


2. 「常食」としてのデパート大食堂

花巻の街は人通りもまばらで、寂しかった。しかしマルカンデパートに入るときに、中学生ぐらいの少年たちが5人ばかり、エレベーターに滑り込んできた。「混んでるかな?」「アキラいるかな?」と、友達同士でおしゃべりに夢中だ。

ドアが開く前に、大食堂のざわめきが聞こえてきて「あっ混んでる!」と言って、少年たちは食堂の入口にあるメニューの展示されているガラスケースに飛び出して行った。

05★岩手県花巻市_マルカン百貨店115re.jpg

06★岩手県花巻市_マルカン百貨店113re.jpg

メニューの前で、みんなでどれにしようかと選んでいる。注文の仕方がわからずにまごついていると、少年たちが口々に食券の買い方を教えてくれた。 自分たちの日頃のたまり場が誇らしそうであり、じつに楽しそうでもあった。

07★岩手県花巻市_マルカン百貨店092re.jpg

▲約580席の大展望大食堂

閉店時間ギリギリでも繁盛していた。この日が特別だったわけではなく、花巻市民の「常食」として日頃から人気のある食堂だ。

08★岩手県花巻市_マルカン百貨店050re.jpg

▲食券制で、札を立てて待つ。箸入れもレトロ極まりない。

食券を買ってテーブルで待っていると、店員さんが取りにくる。店員さんもおばちゃんから地元の高校生アルバイトといった雰囲気の若者まで、幅広い年齢層。家族連れや若者もたくさんいることに驚いた。花巻市民からの絶大なる支持、それがまさに大食堂の一番の魅力だったように思う。



3. 八画文化会館3号より

百貨店の展望大食堂が大繁盛というミラクル!!!!

ここは素晴らしい。花巻市の商店街にある、6階建ての老舗百貨店マルカン。郊外型の大型ショッピングセンターが幅を利かせている今、ローカル百貨店が生き残っているだけで嬉しくなる。

09★岩手県花巻市_マルカン百貨店081re.jpg

▲入口は投げやりだが

10★岩手県花巻市_マルカン百貨店063re.jpg

▲大食堂はレトロな装いのまま元気だった

各フロアは、「ヤング&ミセス」「豊かな暮らし」など、かなり大雑把な展開になっており、5階に至ってはフロアまるごと百円均一コーナーという投げやりぶり。やはり終末化は上階から始まるのか...と、最上階の展望大食堂に足を運んだところ、まさかの大どんでん返しが待っていた。ほぼ満席で大繁盛なのである。チビッコからお年寄りまでが一同におしゃべりと食事と眺望を楽しんでいる。

11★岩手県花巻市_マルカン百貨店069re.jpg

▲エビフライ定食

豊富なメニューは、定食、ラーメンからパフェまで揃い、値段もお手頃で、何より美味しかった。終末物件が大繁盛することで周囲からズレるという稀に見るケースであった。いやはや本当に素晴らしい。 (『八画文化会館vol.3 総力特集:終末観光の切り札 廃墟の秘密。』p95より引用)

12★岩手県花巻市_マルカン百貨店110re.jpg

▲階段側出口の模様はファンシーなキューピッド

13★岩手県花巻市_マルカン百貨店093re.jpg

▲エレベーター前の床模様。細部を装飾するデザインは総じてレトロで可愛かった

14★岩手県花巻市_マルカン百貨店094re.jpg

▲階段の踊り場には昔ながらのボウリング場にあるような5人掛けの椅子も


?4. 名物の箸で食べる10段巻きソフトクリーム

15★岩手県花巻市_マルカン百貨店079re.jpg

▲25?で10段巻きの名物ソフトクリームは、150円(2013年当時)という良心価格だった

名物のソフトクリームは、こんなに大きいにも関わらず食後にペロリと食べられる、さっぱりした味わいだった。

16★20160531re.png

▲河北新報2016年5月31日の記事より引用

閉店の噂が広まると、花巻北高の卒業生たちによって、このソフトクリームの図案でTシャツも販売されていた。300枚限定で4月にフェイスブックで販売開始され、全国から注文が殺到して、6月1日時点でキャンセル扱い分までも完売している。


5. 閉店までの経緯をまとめると

■1959年4月 株式会社マルカン設立

■1973年 「マルカン百貨店」オープン。鉄筋コンクリート8階建てで、延べ床面積は約7743平方メートル。

■1977年 株式会社マルカン百貨店設立

■2011年 「マルカン百貨店」の地階食品売場が閉鎖。

■2015年夏 「マルカン百貨店」が、耐震診断で大規模修繕の必要があると判定される。

■2016年3月7日 「マルカン百貨店」が、耐震のための大規模修繕にかかる改修費が数億円規模に上るため、営業継続が困難と判断したと発表。

■2016年3月12日 花巻北高の生徒たちによりフェイスブックアカウント「マルカンプロジェクト-msc」発足。署名運動開始。

■2016年3月20日 花巻市の空きビルリノベーション会社「花巻家守舎」が、運営引継ぎに名乗りをあげ、大食堂も存続したいと意思を表明。

■2016年5月29日 ??「マルカンのこそう! ワークショップ」が花巻市で開催され、花巻北高生によるマルカンプロジェクトメンバーや、「花巻家守舎」の小友社長(33歳)らが参加。29日までに県内外から9615名分の署名が集まった。

■2016年5月31日 ? 「花巻家守舎」が、存続できるめどが立ったとして、運営引継ぎの準備に入る方針を明らかにした。ただ資金調達に難航する可能性があるとして、最終判断は8月にするとしている。順調に進めば、2017年2月の再オープンを目指している。



再建が順調に進むことを祈りつつ、今後の展開に期待したい。

?

【参考URL】

岩手日日新聞社2016年3月7日「マルカン百貨店 老朽化で6月閉店 半世紀超、商店街の中核

河北新報 2016年3月8日「マルカン百貨店6月閉店 レトロ大食堂消える

河北新報 2016年3月21日「<マルカン>引き継ぎ検討「大食堂も存続

河北新報 2016年5月30日「「マルカン百貨店残して」高校生が署名提出

河北新報 2016年5月31日「<マルカン百貨店>閉店...名物をTシャツに

河北新報 2016年6月1日「<マルカン百貨店>引き継ぎ8月結論

岩手日報 2016年6月4日「別れ惜しみ大盛況 7日閉店の花巻・マルカン大食堂

〈マルカンデパート大展望大食堂〉

住所:岩手県花巻市上町6-2

HP: マルカングループ

訪問日:2013/5/3(金)祝日

コメントをどうぞ

お名前
メールアドレス

Warning: readfile(side_right.html) [function.readfile]: failed to open stream: No such file or directory in /usr/home/aa123zgw2x/html/archive/webmagazine/000608.php on line 278