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ゲンバです!恐縮です!

2010年09月 | CATEGORY : ニッポンの特別な日 | COMMENT(2)

  


 
事件が、ボクの目に飛び込んできた。
ひどい量の煙が上がっている。火事だ!


ボクはハンドルをひねり、車を止めた。
ボクの車は安くて小さいけれど、小回りが利くところが自慢だ。

近所の人だろうか?5、6人が既に消火活動を始めようとしている。
ボクも颯爽と車から降り、消火活動に参加する。

赤い箱を開け、ホースを取り出す。
ところが、水を出す消火栓が見つからない。
周囲を見渡す。
ここに赤い箱があるのだから、近くにあるはずだ。

「この車どかしてください!」

女の人が叫んだ。
安くて小さいけれど、小回りが利く自動車の横に、消火栓はあった。
あ、イケね、ボクの車だ。すげー邪魔だ。
あわてて自動車を移動させる。

再び消火活動に戻ると、ホースの準備はもうできていた。
ところが、消火栓を回すハンドルが無い。
あわてて、さっきの赤い箱を探るが、暗くて見つからない。
女の人が、すかさず携帯電話で照らしてくれた。
ボクのiPhoneは便利だけど、何の役にも立たなかった。

ハンドルをはめて、さっそく放水開始。
ところが、ハンドルが固くて回らない。
どれだけ、一生懸命引っ張ってもダメだ。

「逆じゃないですか?」

女の人が言った。
その通りにすると、ハンドルは軽く回り、勢い良く水が送り出された。

「すべての男は消耗品である」と村上龍は言ったけど、
消耗品でいいから、せめて少しくらい役に立ちたい、とボクは思った。

現場は、JRの駅のすぐ隣にある食堂だった。
火は内部に上がっている。

「窓を割れ!」

どっかのおじさんが叫ぶ。
確かに、いくら水をかけたところで、屋根の上からでは意味が無かった。

「水止めろ!」

さっき、逆に回したハンドルを逆の逆に回した。
つまり、元に戻したってワケさ。

窓を割って、再び放水開始。
ハンドルを握っていたのは、もうボクではなく、女の人だった。

放水のおかげで、火は見えなくなったが、煙はまだ勢いを失わない。

やがて消防団が到着し、いよいよボクはやることがなくなった。
あ、そうだ、とポケットのiPhoneを取り出してパチリ。
それがこれ。

  

軒下の壁の内側から火が見えている。まだ鎮火していなかったのだ。
油断している場合じゃなかった。

  

仕事する男達に押されて、後退するボク。
こういうとき、カメラで写真なんか撮っていると、やはり場違いな気分になる。
不謹慎ではなかろうか。
故・芸能リポーター梨本さんが、スターの修羅場に
「恐縮です!」
といいながらも、飛び込んでいくのは、やはり一線を越え、
根性が座っている仕事人の姿だと思う。

一方ボクは、
「これ以上近づいたら、iPhone濡れちゃうなー」
と思っていた。

火消しにも、記者にもなれない。
消耗品どころか、すでにクズである。

  

警察も到着し、ボクはどんどん後ずさる。

 

 

そこで動画まで撮ってしまう、不謹慎ぶり。

  

現場は未だ緊迫したムードが張りつめる。
ホースが入り乱れ、あたりは一面水浸し。
左は、警察に事情を聞かれる食堂の店主さん。

  

火が残っていないかどうかチェック。

「ヘルメットかぶれ!とにかく、かぶれ!」
という声が、響いていました。

  

ボクは、いよいよ居場所がなくなり、遠くから撮影。

山間の一本道が通行止めとなり、大渋滞に。
「今夜、帰れるかなー」
と、最後まで場違いで不謹慎なことばかり考えいた。

小さな田舎で起きた火事。
気がつくと、近所中から、やじ馬が集まっていた。
やじ馬は最初ゾワゾワと騒がしかったが、やがて村の寄り合い状態に。
よくよく聞いていると、
「どうしちまっただ?(塩尻弁)」
「あじゃぱー」
「水道代って誰が払うの?」
「おう、久しぶりだな。オヤジ元気か?」
「○○さん、入院したらしいよ」
「この間の花火行った?」
と、ケッコーみんな不謹慎だった。

濡れた足が、急に冷たく感じた秋でした。

●ゲンバです!恐縮です!
長野県塩尻市/2010年9月/遠藤文庫
 
 
 


消耗品だってOK。
逆に焚いてやれ。

コメント(2)

文ちゃん

プッシュ効果絶大?!
この更新日、今月の最多アクセス数を記録しました!

あじゃぱー
っていい大人語だよねー(笑)

(春吉)

いや?面白かったw(不謹慎)

>さっき、逆に回したハンドルを逆の逆に回した。
>つまり、元に戻したってワケさ。

なんか、アメリカ文学みたいだね。
このくだり、本当面白い!!
村上春樹とか読むと、こういう文章が書けるようになるのかね?

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