ニッポンの廃墟
価格■2625円(税込)
発行■2007/08/01
判型■A5(148×210)
頁数■256ページ
発色■4C:95ページ 2C:161ページ
ISBN■978-4-9903712-0-3 c0025
【目次】
■まえがき
■午睡の廃墟 三五繭夢
■廃墟REVIEW 200
■廃墟日本全国マップ
■廃墟格付けランキング
■廃墟の区分について
■[インタヴュー]戦争遺跡 黒魔(日本戦跡調査団)
■[インタヴュー]鉱山廃墟 黒魔(廃墟伝説)
■THE RUINS OPENED UP! 西日本
■魂消た廃墟!!写真
■THE RUINS OPENED UP! 北海道~東北
■THE RUINS OPENED UP! 北陸~関東~中部
■【廃墟】用語辞典
■[インタヴュー]スペシャリスト達が語る 関東・関西の廃墟の魅力
黒魔(廃墟伝説) アキラ・リザード(蜥蜴の第三の目
■[インタヴュー]ニッポンの廃墟をめぐる探索奇談 栗原亨(廃墟explorer)
■もしキミが、廃墟に行く、と言うのなら
■あとがき
【掲載物件一覧】
001築別炭鉱廃墟群/002羽幌炭鉱/003浅野雨竜炭鉱/004昭和炭鉱/005むしむしランド/006沼東小学校/007奔別炭鉱/008幌内炭鉱/009北炭 夕張市産業遺跡群/010白鳥湖観光ホテル/011コスモ/012グリムの森/013ハヨピラ自然公園/014中華庭園天華園/015マザー牧場ホテル/016レストラン大仏亭/017中外鉱業上ノ国鉱山/018モンテローザ/019函館要塞跡/020日本特殊鋼管/021田老鉱山/022上北鉱山/023スペース21/024療養所の石像群/025松尾鉱山+生活学園/026国民宿舎蓬莱荘/027サニーランド蛇の島/028金華山観光ホテル/029化女沼レジャーランド/030日本粘土鉱業 岩手鉱業所/031釜石鉱山/032尾去沢鉱山/033念珠関中学校/034男鹿プリンスホテル/035南三陸シーサイドパレス/036奥新川変電所/037廃村 大滝宿/038ホテル富貴/039高子沼グリーンランド/040横向温泉ロッジ/041持倉鉱山/042幽霊ペンション/043新潟県自動車博物館/044リゾートイン長岡/045新潟ロシア村/046足尾銅山/047豊生庵/048旧細尾発電所/049ラブホテル・パール/050山本園大谷グランドセンター/052ヘルスセンター佐波の湯/053東洋診療所/054ソープランドクイーンシャトー/055 18禁店舗の複合ビル/056龍宮城 びっくりおもしろ美術館/057東京医科歯科大学霞ヶ浦分院+鹿島海軍航空隊跡/058平安閣/059大天狗神社/060明野劇場/061鹿行中央病院/062岩鼻陸軍火薬製造所跡/063カッパピア/064浅間園展望台/065浅間モーターロッジ/066小串鉱山/067秩父太平洋セメント/068白根鉱山/069関東帝国ヒューム管埼玉工場/070天神山城/071鉱山診療所+赤岩文化会館/072三峰ロープウェイ旧三峰山頂駅/073鹿の湯山荘/074廃村 白岩/075岩窟ホテル/076第二海堡/077検見川送信所/078ホテル望洋/079米軍立川基地/080奥多摩ロープウェイ/081八丈島国際観光ホテル/082米軍府中基地/083八丈温泉ホテル/084竜宮城/085恵心病院/086オオイマツダトーヨーボール/087 T病院/088阪東橋ホテル/089日本BE研究所/090根岸競馬場/091スポーツワールド伊豆長岡/092東伊豆町隔離病舎/093下田御苑ホテル/094持越鉱山/095清越鉱山/096山中湖リゾートホテル/097ホテルセリーヌ/098信州観光ホテル/099土砂で埋まったホテル/100旧長野朝鮮初中級学校/101レストラン東山/102日本陸軍伊良湖試験場跡/103三河座/104ナゴヤトーヨーボール/105 S医院/106旧八穂排水機場/107ホテルニューチリ/108白石鉱山/109紀州鉱山/110春日鉱山/111東濃朝鮮初中級学校/112時山第2発電所/113神岡鉱山/114天下一家の会 恵那研修保養所/115ハイランドホテル/116ひるがの高原ホテル/117健全ナル國民ノ診療所/118山中水無山展望台/119エバーグリーン立石/120坪野鉱泉/121モテル北陸/122和叙園/123第一観光ホテル/124坂田荘/125面谷鉱山/126土倉鉱山/127廃村 向之倉/128/中川煉瓦製造所129愛宕山鉄道跡/130甲賀ファミリーランド/131アインボール/132舞鶴市の赤煉瓦造りの戦跡跡/133笠置観光ホテル/134五代松鉱山/135飯盛鉱山/136グランドホテル椿/137ほととぎす旅館/138倉谷温泉/139友ヶ島/140大榮閣/141一龍旅館/142若人の広場/143建設中ホテルA/144猪名川クレー射撃場/145摩耶観光ホテル/146明延鉱山/147龍宮園/148犬島精錬所/149サンドロ/150寅屋旅館/151湯原温泉ロープウェイ/152ホテル ラ・レインボー/153竜山鉱山/154鳥取プレイランド/155若松鉱山/156鞆の浦山荘/157ホテルシャモニー/158旧陸軍造兵工場(毒ガス島)/159のうが高原ホテル/160旧三縄発電所/161喝破道場/162ホテル甚五郎/163畑田発電所/164四国おまつり村/165千羽海崖ロープウェイ駅/166別子銅山東平第三変電所跡/167スカイレストニュー室戸/168松尾無線中継所/169ホテル皇邸/170ヴァンガード竜串/171下関要塞跡/172龍神工業/173万田坑/174日本セメント門司事業所/175伊万里造船所/176志免炭鉱/177端島炭鉱(軍艦島)/178旧長崎刑務所/179 T精神病院/180池島炭鉱 鉱員住居群/181崎戸炭鉱/182雲仙ニューグランドホテル/183深水発電所跡/184魚雷発射試験場跡/185アジアパーク/186卑弥呼の里/187志高ユートピア/188旧沈堕発電所/189豊後森機関庫/190尾平鉱山/191廃村 寒川/192日本一怪しい公園 だるまの里/193小谷園/194建設途中の廃病院/195あさぎり荘/196海上の廃洋館/197ハブセンター池田湖/198旧米軍嘉手納弾薬庫/199曽木発電所遺構/200中城高原ホテル
【書評で取り上げていただきました!!】
●連載「読みびとしらず」
第5回ニッポンの廃墟+1コインブックレット 都築響一著
『scripta no.5』紀伊国屋書店出版部/2007年/フリーペーパー
(以下全文)
「いちばん難しいのはねー、野山を探して歩くことじゃなくて、嫁さんを説得することですよ」と、ある廃墟マニアはしみじみ言った。
廃墟探索とは、まことに労多くして理解されることの少ないオトコの趣味......のはずだったが、ここ数年の廃墟ブームは、古参廃墟探検家もおどろく盛り上がりようだ。
ウェブサイトには各地方の廃墟マニアたちが、競って探索記をアップしているし、書店の写真集コーナーにもつねに数冊の廃墟本が平積みされている。世界遺産でもなく、歴史に名を刻む遺跡でもない、ただの閉山した鉱山や、潰れた遊園地やホテルや、住人が去ったあとの廃屋が、どうしてここまで人を惹きつけるのだろう。アメリカではゴーストタウン観光が年々盛んになっていて、各州のゴーストタウン・ガイドブックも出版されているが、西部開拓の歴史と寄り添うアメリカのゴーストタウン観光とは、あきらかに異なる体温の、湿ったエネルギーが日本の廃墟探索からは伝わってくる。
名古屋をベースに発信している『東海秘密倶楽部』というウェブサイトがあって、中部地方を中心とした廃墟群、さらには秘宝館や路傍のおもしろ物件まで、幅広くマニアックに採集活動を続けている。僕もよくチェックさせてもらっているのだが、なにしろそうとう気合いの入った人たちらしい。日本初の秘宝館であり、今年三月に惜しまれつつ閉館した三重県伊勢の元祖国際秘宝館の"公式ガイドブック"(一千部限定ナンバー入り、オールカラー十六ページ、八百円、残部僅少!)を二〇〇六年に突然発売、一部の好事家を震撼させた。その秘密倶楽部がこのほど、長年の研究成果をまとめた決定版の廃墟ガイド、『ニッポンの廃墟』を発表、これがまたチカラのこもった一冊なのだ。
『珍日本紀行』というプロジェクトで日本全国の珍観光名所を巡ったとき、僕は廃墟物件をほとんど取り上げなかった。廃墟になる一歩手前の、腐りかけのクリエイティビティのほうが気になっていたこともあるし、いまなら間に合う、いま記録しないとなくなってしまうという切実な思いが強かったこともあるが、もうひとつ、廃墟を写真に撮ると、たいてい"美しく見えすぎる"ことに躊躇する気持ちもあった。
廃墟の美とは、物質が与えられた役割から解放されて、本来の姿に戻っていく、そのプロセスを目撃する悦びである。コンクリート造の病院が、年月とともに風化し、病院というレッテルを剥がされて、そこにいた人間たちの痕跡を徐々に薄めながら、コンクリートの巨大なカタマリに転化していく。自然にある素材から、なにかまったく別物を造り出すのがアーティストならば、人間が作った別物を、有無を言わさず元に戻すクリエイティブ・フォース、それが自然という強力なカウンター・アーティストなのかもしれない。
だから廃墟の写真は、いつもきれいだ。世にある廃墟本も、ほとんどが写真集の体裁を取っているし、写真家としてその誘惑は、すごくよくわかる。『ニッポンの廃墟』も全二五六ページのうち九十三ページを"美麗カラーフォト"が埋めつくしているが、しかしこの本は写真集ではないし、カメラマンの作品集でもない。日本の47都道府県すべてを網羅した、いま手に入るもっとも詳細にして実用的なガイドブックだ。
秘密倶楽部のスタッフはもちろん、日本各地の廃墟マニア諸氏の協力を得て制作されたというこのガイドは、足尾銅山のような巨大廃墟から、廃屋という言葉のほうがふさわしい民宿跡に至るまで、まるでミシュランのように客観的な説明と地図、それに順位までつけられて、規則正しく北海道から沖縄まで、二百ヶ所以上の廃墟を網羅している。
「スペースシャトルが8機並ぶ北海道のラブホ」、「宮城県の離島に取り残された断崖絶壁の旅館」、「神奈川県の競馬場」、「岐阜県の山中に残る戦時中の診療所」、「香川県の警察署」、「長崎県の明治時代の刑務
所」......ほんの少し見出しを並べてみるだけで、賢明な読者は、これが"廃墟ガイド"という体裁を借りた、実はだれもが目をそむけつづけてきた、もうひとつの現代日本のビジュアル・ヒストリーであることに気づくだろう。歴史の教科書やテレビ番組には、決して取り上げられない、しかし同時代の日本人にとっては、はるかにリアルな。
『ニッポンの廃墟』にはネット購入者の特典として、廃墟で見つけた言葉たちを採集した『廃墟とブルース』という小冊子が付録に付いている。たとえば愛知県知多半島の独身寮の廃墟の壁にあった詩......
小島さんへ
二週間も
まちきれません
もお、クビでも
なんとでも
してください
ひょうどう
死ね
クソが
クビでも
なんとでも
しやがれ
小浜より
(中略)
もし、むかえにきても
ぜったい、このまるひこにわ
なにがなんでも、死んでも
二度ともどりません。
ちからづくでもやめます
九州でしづかに
くらすからよ、
どんなことがあっても
このまるひこにわ
死んでも、もどらない
(後略)
これだけでも一冊の詩集ができてしまいそうだ。
手持ちのネタを小出しにするのではなく、入れられるだけぶちこんでしまう、昨今の大出版社にはもっとも不得手な本づくりの原点がここにあるようで、同業者としてはうれしさと焦りの両方を味わいながら読ませ てもらったのだが、東海秘密倶楽部は、なんと本書と同時に、"1コイン・ブックレット"なる廃墟がテーマの小写真集を、一挙に七冊も刊行してしまった。
1コイン、つまり五百円でレコードEPサイズ(シングル盤)、オールカラー十六ページの写真集は、日本最大規模の産業廃墟である神岡鉱山、離島の戦争遺跡、日本各地に現存する秘宝館と廃墟(特別版、三十二ページで一千円)など、テーマを絞ったブックレットで、これまた貴重な画像記録である。十六ページとはいえ、オールカラーで一冊五百円(しかも税込み!)。それもおそらく数百部を印刷して、全国に流通させること。それがいったいどれほど大変で、どれほど金銭的に報われない仕事であるか、想像するだけで冷や汗が出てくる。いったいどこから、こういうパワーが生まれてくるのだろう。
まあ、こんな紹介文を読むまでもなく、廃墟マニアはすでに全冊注文済みだろうが、これほどの出版プロジェクトが、日本のメディアのほとんどが集中する東京からではなく、地方から発信されているという事実。それを廃墟マニアだけでなく、すべての読書家に、そしてなにより東京以外どころか、山手線の外側すら見ようともしない東京のおしゃれ編集者のみなさまに、ぜひ知っていただきたい。